立秋を過ぎても、40度に迫る暑さが続いています。有名な俳句に「言うまいと思えど今日の暑さかな」というものがあります。作者は不詳だそうですが、厳しい気候の夏をなんとかやり過ごしている庶民の素朴な心情があふれていて、大変共感します。
特にこの「言うまい」、つまり「言わないようにしよう」という決意を述べる始めの部分が、この句の魅力だと思います。
暑い、暑いと言い立てても涼しくなるわけではありません。言っても何の役にも立たない、だから黙っていよう。いったんはそう決意するけれども、つい言ってしまう。このちょっとした葛藤と後悔が「今日の暑さかな」の実感を引き出します。
私はこの句の作者は、心の強い人だと思います。周りを見れば、暑い、暑いと口にする人がほとんどです。人に会えば挨拶がわりに「暑いですねえ」と言い交し、独り言でも「暑いなあ」と言わずにはいられない。それが人間の自然な心情であり言動でしょう。
しかし、そんな中で一人、言わないでおこうと決意する人がいたわけです。自分の言動に対してこうありたいという理想を持ち、自分を抑制しようとしたこの作者を、私は尊敬します。
その決意は、すぐにくじかれてしまうのですが、それでも何も考えずに「暑い、暑い」と口にして自分も周囲もよけい暑苦しくしている人たちよりも、よほど立派ではないでしょうか。
私も、この句の作者にならい「言うまい」という決意をもって、酷暑の日々を過ごしたいと思います。
心の強さと真夏の決意