■ワンポイント・エッセイ
労働という切り口で考える(5)頭脳労働を支える“心”
占部 正尚
講師を労働者として捉えた場合、誰もが真っ先に思い描くのは
「頭脳労働」でしょう。そこで前回までの「肉体労働」に続き、
“心技体”を切り口に考えます。
まずは“心”を取り上げますが、これにあたってノーベル生理学・
医学賞を受賞された大隅良典博士のエピソードを紹介します。
大隅博士による社会人対象の勉強会に参加したことがあります。
テーマは研究のやり甲斐や重要性についてでしたが、次第に専門分
野のオートファジー(細胞の自食作用=良い細胞が悪い細胞を食べ
ること)に話題が移りました。
最初はアミノ酸の化学式を書きながら熱心に講義していましたが、
参加者の多くが文系出身であり、目を白黒させているのを察知した
ようです。
いきなり「適度なダイエットは健康に良い」と話を切り替えたの
です。ダイエットにより摂取される栄養分が減ると、良い細胞は飢
えた状態になり、悪い細胞を食べ始めるのだそうです。
悪い細胞とは、将来的に癌や糖尿病を引き起こす原因となるので、
それらが食べられ少なくなることは、病気になるリスクの減少を意
味し、すなわち健康につながるという訳です。
この説明なら、学生時代に化学が嫌いだった参加者も理解できま
す。
「ノーベル賞受賞者は、さすがに頭脳が明晰だ」と思われるかも
知れませんが、選ばれ続ける講師になるためには、博士の“心”に
思いを至らせるべきでしょう。
労働という切り口で考える(5)占部正尚